中島さんが、現在の生成AIによるご自身でのプログラム開発の現状をYouTubeで話されていました。
その中で、私が特に引っかかったのは、AIが書いたプログラムを、今ではノーチェックで採用しているという話です。
以前は、信用できないので自分でチェックしていたそうです。
それが、今はチェックせずに使っている。
単に「AIが便利になりました」という話なら、ここまで気にならなかったと思います。
ですが、使っている人が中島さんなので、この変化には重みがあると感じたのです。
そして、この話はプログラマーだけが気にしていればいい話ではないと思ったのです。
「まだ任せられない」が、約1年で変わった
中島さんは、米マイクロソフト本社でWindows 95や98の基本設計を主導し、「Windows 95の生みの親」として知られるソフトウェアエンジニアです。
現在もシアトルを拠点に、AIを中心とした技術の最前線で、自ら開発や情報発信を続けています。
つまり、外からAIの進化を眺めて解説しているだけではなく、自分の仕事の中で毎日使っている方です。
その中島さんが、1年ぐらい前の動画では、生成AIはまだ経験の浅いプログラマーが書くレベルのプログラムしか書けない、と話されていました。
ところが、今回の話では、現在のAIの技術レベルは上位10〜15%のエンジニアの水準に達しているとのことです。
もちろん、これは今回紹介されていた評価であって、どんな開発でも、どんな指示でも同じ結果になるという意味ではないでしょう。
ノーチェックという使い方も、誰もがそのまま真似していいという話ではありません。何を任せるかを判断できる中島さんだからこその部分もあるはずです。
それでも、以前は自分で確認していた人が、その確認を省くようになった。ここには、性能の数字だけでは伝わらない変化があります。
「試しに書かせる相手」から、「仕事を任せる相手」に変わったということです。
私は、この約1年という短さが気になりました。
以前に少し使ってみて、「まだ仕事には使えないな」と感じた方もいると思います。その判断は、試した当時には正しかったかもしれません。
ただ、そのときの印象のままで、今も使わずにいるのはもったいないです。こちらが試すのをやめている間も、AIの側は変わり続けています。
10倍働く人より、AIに仕事を渡せる人
中島さんの話では、AIの活用によって個人の生産性が10倍に、潜在的にはそれ以上になっているそうです。
1人のエンジニアが、従来なら数十人規模で行っていた開発を担える可能性がある。
こう聞くと、「そんなに速くプログラムを書けるのか」と思いますが、本人の手の動きが10倍速くなったわけではありません。
自分で書いていたものを、AIに書いてもらうようになったのです。
AIは、指示を与えればすぐに作業に取りかかる「指示待ちの部下」のように機能します。
ここで大切なのは、「指示待ち」というところです。
優秀な部下がいても、何をして欲しいのかを伝えなければ、欲しい成果は出てきません。
何を作るのか。誰が使うのか。何ができれば完成なのか。逆に、何はやらなくていいのか。
こうしたことを考えて仕事を渡すのは、使う側の役目です。
ですから、AIを使うというのは、自分でやっていた作業を、そのまま全部放り投げることではないと思います。
仕事の目的を決めて、任せられる部分を切り出し、返ってきたものが目的に合っているかを判断する。自分の担当する部分が変わるわけです。
プログラムを書く速さではAIにかなわなくなっても、そのプログラムで何を実現したいのかを考える仕事はあります。
むしろ、作れるものが増えるほど、「では、何を作るのか」が問われます。
AIに興味があるなら、ここは是非とも意識しておきたいところです。
「自分の作業をどれだけ上手にできるか」だけでなく、「この作業をAIに任せるなら、何を伝えればいいか」と考えてみる。
同じ仕事をしていても、この問いがあるだけで、AIを試す目的がはっきりします。
「何人で何か月」から、「いくら役に立ったか」へ
この変化は、仕事の進め方だけでなく、お金のもらい方にも影響します。
システム開発では、これまで「何人が何か月働くか」という人月を基準に、金額を考える仕事が多くありました。
人手と時間を投入して稼ぐ。その働き方が「IT土方」と揶揄されることもありました。
ところが、AIによって、これまで何人も必要だった仕事を1人でできるようになったらどうでしょうか。
従来と同じように、かかった人数と時間だけで請求するなら、速く作れるほど請求額が小さくなってしまいます。
一方で、依頼する側が欲しいのは、開発に長い時間をかけてもらうことではありません。
そのシステムによって、毎月のコストがどれぐらい減るのか。売上げがどれぐらい上がるのか。そこにお金を払う理由があります。
つまり、作業にかかった手間よりも、できたものが生む成果を基準にする方向へ進むはずです。
もちろん、すべての契約がすぐに変わるわけではないでしょう。ただ、少人数で大きな成果を出せるようになるほど、人月だけでは価値を説明しにくくなります。
これは、AIを使う側にとってはチャンスでもあります。
これまでなら、人を集めるところで諦めていた仕事にも、手が届くかもしれません。作業に追われて後回しにしていた改善に、取り組めるかもしれません。
自分の手を何時間動かしたかではなく、その結果、相手に何をもたらしたか。
ここへ目線を移せるかどうかで、AIの進化の見え方はかなり変わると思います。
なくなる仕事を数えるより、まず1つ任せてみる
この状況から、今のプログラマーの仕事は、あと数年でなくなるのではないかという見方が出るのも理解できます。
ただ、プログラマーという職業が丸ごとなくなるのか、何年後なのかまでは、私には断言できません。
それでも、指示されたとおりにプログラムを書く作業だけを、これまでと同じ人数、同じ時間をかけて続けるのは難しくなりそうです。
そして、他の業界でどこまで同じことが起きるかは分からないものの、AIに任せられる作業が増える流れは、開発の現場だけでは終わらないでしょう。
だからといって、不安になって情報を集め続けるだけでは、自分の仕事は変わりません。
まずは、今抱えている仕事から、1つだけAIに任せてみるのがいいと思います。
選ぶのは、結果の良し悪しを自分で判断できて、失敗しても取り返しのつく作業です。
その際、「これをやって」とだけ頼むのではなく、何のための仕事で、どのような状態になれば使えるのかまで伝えてみてください。
出てきたものが期待と違ったら、すぐに「AIは使えない」で終わらせず、足りなかった条件を伝えて、もう一度やってもらう。
このやり取りをすると、AIの得意不得意だけでなく、自分が普段どれほど曖昧なまま仕事を進めていたかにも気づくはずです。
最初から10倍の生産性を目指す必要はありません。
これまで自分でやっていた作業を1つ任せて、その分、自分は次の判断に時間を使う。それだけでも、仕事の進め方は変わります。
そして、以前はうまくいかなかった作業も、ときどき試し直してみる。中島さんの約1年での変化を聞くと、これは大事だと感じます。
AIに何ができるようになったかを知るのは面白いです。
ですが、知っているだけでは、その能力を自分の仕事には使えません。
次にAIの進化の話を聞いたときには、「すごいな」で終わらせず、「それなら、自分は何を任せようか」と考えてみてください。
進化を眺める側から、自分の仕事に使う側へ。まずは小さな作業1つからでいいと思います。